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欲望の劇場










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友達の裕子からそのバイトの話が来たのはある平日の昼下がりだった。

半年前 裕子からFXと言う名前を初めて聞いた時は、何かパソコンの名称かと思った。
みゆきにとって株、投資といった類(たぐい)のものは全く自分とは無関係のものだと思っていたからだ。
しかし、裕子に誘われるまま始めてしまうと瞬く間に50万の利益を出してしまった。

みゆきの夫たけしはそれなりの会社に勤め同じ年代のサラリーマンと比べればかなり恵まれた年収だった。
そのおかげでみゆきも生活費の為のパートなどに出る事はなかった。

そんな恵まれたみゆきにとっても50万という大金を一瞬にして手に入れた後は、ゲームの深みに嵌(はま)るのにはさほどの時間は必要なかった。

その後も運良く利益を出し続けたのだが、一度大きな損を出すとそれを取り返そうと剥きになり、気づいた時は逆に数百万の赤字が生まれていた。
みゆきにとって一番まずかったのは、軍資金に当てた金の事であった。
みゆき たけし夫婦の長男大樹(だいき)が生まれてから始めていた子供名義の貯金を切り崩していたからである。

口座の中身を夫が気づく前に何とかしようと、銀行で生活ローンのようなものを借りようとしたが、収入の無いみゆきには貸してくれるわけが無く、まして夫に保証人を頼む事は当然出来なかった。
ローン会社のキャッシングでは限度があり、結局裕子に相談し、裕子が以前利用した事があるという街金融から借りる事になったのだ。

街金からの融資が実行され、ホット一息つく間もなく月末からは返済が始まってしまう。
裕子が家にバイトの話を持ってやってきたのは、そんな先行きに不安を感じている時だった。

「ねえ みゆき、何か割りの良い仕事見つかった?」

「えっ ・・全然。広告とかネットとか見るけど・・時給や労働条件をみると、どうしても他にもっと良いものないかなって・・主人に黙って働きたいし・・・なかなか決めきれないわ」
椅子に座った裕子にお茶を出しながらみゆきは答えた。

裕子とはお互いの子供が小学1年の時のクラスメートで、学校行事の集まりで知り合い、年齢が同じ34歳という事が判明してから急に仲良くなってもう8年くらいの付き合いになる。
いつしかお互いは“みゆき” “裕子”と名前を呼び合う仲である。

みゆきと裕子には、もう一人名前を呼びう合う仲の良い友人がいた。
やはり子供が同じ小学校だった真由美だ。
真由美は物静かで少しミステリアスな感じ、裕子は声が大きく明るく活発なO型タイプだ。

お茶を一口のみカップをテーブルに置くと裕子が話し出した。
「ねえ みゆき・・あのね・・モデルって興味ある?」

「えっ モデル!・・どんな?」

「う〜ん 実は少し前からみゆきに話そうと思ってたんだけど、ほら 私がFXなんかを紹介したばっかりにこんな事になっちゃったでしょ・・」
裕子は少し俯きながら話した。

「もうそれは言わないって言ったじゃない。裕子は何も悪くないわ、結局私が自己管理できなかったんだから・・それより、そのバイトっていうのはどんなやつ?」

裕子は目の前に乗り出してくるみゆきから視線をはずしながら話し始めた。
「じゃあ 話すね・・私がそのバイトをしたわけじゃなくて、人からの又聞きなんだけどね」

裕子が話して聞かせたモデルのバイトとは・・。
裕子の知り合いの知り合いにスナックのママがいて、最初は客の中の写真好きな男に自分の店のホステスを紹介したのが始まりという事だった。

それから数年がたち、今では人から人へと話が広がり顧客が増え、ママはスナックとは別にスタジオを借りてそこで撮影を行っているという事だった。

「裕子、それで具体的にそのモデルってどんな事をするの?・・・ひょっとして・・」

「うん・・やっぱり気になるよね・・、でも詳しい事は直接聞いて欲しいんだ。今日は電話番号は聞いてきてるから、この後はみゆきが直接電話してみて・・」
そう言うと裕子は携帯に登録してきた番号をみゆきに伝えた。

携帯を持って考え込んでいるみゆきに裕子は続けた。
「大丈夫よ。みゆきならどんな事があっても平気だよ、そのナイスバディーがあれば、それに本当に日給にすると数万円って言う話よ。借金返し終わったらご馳走してね えへ!」
 
「もう 裕子ったら、こっちは真剣なのよ」
口を尖らせるみゆきであったがこんな時でも明るい裕子に気持ちが救われる気がしていた。
長い付き合いの中で子供の成績の事や夫の事、それにオシャレの事など、ライバル心を持つ事もあったがやはり大事な友人であり、改めて感謝の気持ちが湧いてきた。

それともうひとつ、日給数万円という言葉に確かにみゆきは魅かれ始めていた。
そして裕子が帰った次の日にはそのママに電話をいれていた。










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