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月明かり










2
 恵(けい)と再会したのは4年前、私が38歳の時。
 広告代理店で働く私が、旧友の塩田(しおた)に連れて行かれたある出版記念パーティーの2次会だった。


 ある出版社で編集長の片腕を務めていた塩田が、担当した事のある一人・・・・道尾圭介(みちお けいすけ)。
 当時の道尾は確か50歳。
 数年前に書いた小説がある賞の一つを受賞して、それからいくつかのヒット作を出し、有名作家の仲間入りを果たしていた頃だった。


 2次会の会場となったのは、六本木にあった会員制クラブ。
 バブル時に建てられた如何にも成金趣味の佇まいが、20年近く経ったその頃もその様相を夜の闇の中に浮かび上がらせていた。
 そんなビルの地下にそのクラブはあった。


 扉の向こうには黒を基調とした空間が広がっていた。
 黒魔術、黒幕 そんな例えが似合いそうな男達が、バニーガールから受け取るグラスに口を付けながら談笑している姿が目に映った。
 パートナーの女性の品評なのか、バニーの値踏みなのか、男達の口元に脂(あぶら)ぎったものを感じたのは私だけだっただろうか・・・。
 間違ってもあの場所で名刺交換をしようとする者等はいなかったはずだ。

 
 『道尾の小説に出てくる女性には表情が無かったんやよ、〜あれを しました  〜これを しました 〜喜んだ  〜感じた・・・もう少しその場面場面で音とか色とかで女性を表現できてたら・・・』
 場違いな所へ来てしまったかな・・・・そんな事を考えていた私の横で、前方で挨拶をする道尾を眺めながら塩田が独特の関西弁で囁くように話し始めた事が思い出される。


 出版業界の事や、有名作家に興味があったわけではない。
 当時 不況の折で、私の勤める広告代理店もお得意様の経費削減、インターネット広告への転換などで仕事が減少している頃だった。
 新規の開拓の為なら色んな所に顔を出そう・・・・そんな会社の方針が出た時の、塩田からのタイミングの良い誘いだった。


 『せやから あの作家(せんせい)が売れるようになったんは、登場する女性の描写の仕方が変わってきてからやな・・・』
 昔から活字を読むのが苦手だった。
 そんな私が、そのパーティーの前に “道尾圭介” の本を読んでみようと思ったのは、どう言う風の吹き回しだったのか・・・。


 パーティーの誘いを承諾した時に、言ってた塩田の言葉。
 『“中年男女の性愛”  “不倫”  “大人の純愛” 、そう言うジャンルよ・・・・まあ 山本にはピンと来ないやろ、なんせ38年間独り者のお前さんにはな・・・』
 好き好(この)んで独身を通していた訳ではない。
 女嫌いだった訳でもない。
 “縁” がなかった・・・・対面上 都合の良いこの言葉を使う事が多かった。
 その通りなのだろうが、どこかで恋愛に憧れながらも、億劫(おっくう)で臆病な自分がいたのだと思う。
 “中年男女”  “純愛”・・・・そんな言葉がキーワードとなって、私の手にその本を取らせたのだろうか。


 『それと へへ、 ほら あそこにいるベッピンさん・・・・あれが道尾(せんせい)の奥さんや。奥さん 言うても2人目やけどな。確か佳恵さん、あの人と結婚してからかな、女の描き方が変ってきたのは』
 遠目に見たその女性の第一印象は、綺麗で物静かな・・・そんなところだっただろうか。
 その女性に魂を揺さぶられるような感情が沸いたのは、目的である道尾圭介が私達の所に挨拶に訪れ、直ぐこのパーティーに来た事が徒労に終わったと早くも退席のタイミングを考えた時だった。


 『初めまして・・・・・』 私と恵(けい)との20年ぶりの再会の第一声は、そんなどこにでも転がっているありきたりの言葉だった。
 『道尾の家内でございます』・・・・・儀礼的な挨拶に会釈しあった直後だった。
 あっ!・・・・・2人の口からは、そんな音が漏れたと思う。
 黒い会場の中、隠微な淡い照明の下、この会場で唯一和服を身に纏った女性を見つめていた。


 (まさか・・・・恵(けい)?・・・・恵だよね)
 (山本?・・・山本・・慶彦さん・・ですよね)


 そんな会話が2人の心の中で交わされただろうか。
 恵は道尾に促され、あっという間に私の前から消えていった・・・・物静かな瞳を潤(うる)わせて。


 『どないしたんや山本、 道尾(せんせい)の奥さん知ってるんか?』
 塩田の問いに、黙って頷く私がいた。




 『初恋の女(ひと)だよ』
 会場を出た後にフラっと立ち寄ったスナックで、塩田に返した言葉だったと思う。
 この歳になって、大学時代の友人に “初恋” と言う言葉を使うなんて。
 その言葉を口にした自分自身に驚く私がいた。


 ニヤ付く塩田の横で紫煙が舞い上がった。
 変った・・・・あの底抜けの明るさは、片鱗(へんりん)の一欠片(ひとかけら)もなかった。
 ほんの一瞬の再会だったが わかった・・・・・ような気がした。
 その位私は彼女の事を・・・・・。


 聞いてみたかった。
 幸せなのか・・・・・と。
 それほど彼女の瞳の奥には、暗い翳りがあった・・・・・のではないか。


 もう20年近く経ったのだ・・・・彼女にだって・・・・・・・・。
 彼女の目には私の事はどう映ったのだろうか・・・・・・。
 再び紫煙が舞い、目に染みた。


 もう一度会いたい。
 もう一度会って、出来る事なら確かめたい。
 もし 悩みがあるならせめて、その悩みを共有したい・・・・・と思った。


 半年後 そんな想いを言葉にする機会がやってきた。










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